予防と健康レポート
1.はじめに
うつ病(うつびょう、鬱病、欝病)とは、気分障害の一種であり、抑うつ気分や不安・焦燥、精神活動の低下、食欲低下、不眠などを特徴とする精神疾患である。「身体的症状」として、食欲、体重、睡眠、身体的活動性の4つの領域で、顕著な減少または増加が生じる。訴えとしては「食欲がなく体重も減り、眠れなくて、いらいらしてじっとしていれない」もしくは「変に食欲が出て食べ過ぎになり、いつも眠たく寝てばかりいて、体を動かせない」というものである。このうつ病についてビデオと論文を踏まえて考察したいと思う。
2.選んだキーワード
「うつ病」・「労働」
3.選んだ論文の内容の概略
労働環境をとりまく厳しい環境のなか、労働者のストレスやうつ、抗うつなどメンタルヘルス不全が増加していると指摘されている。勤務者の長時間労働の恒常化、過重負荷による心身への影響が懸念されている。1998年には、金融機関の破綻があいつぎ、わが国の自殺者は3万人を越え、とくに50歳代男性の自殺率が増加した。これに伴い、精神障害等の労災補償に関する請求件数、認定件数ともに著しい増加傾向にある。労働者のメンタルヘルスに影響を与える要因として、労働時間、職場での人間関係、上司、同僚の支援、要求される業務量、裁量、報酬など様々なものが挙げられる。これらのうち労働時間は政策的介入の目安として多くの職場において共通に明示することが可能なため、職場における労働者のメンタルヘルス対策として取り組むべき措置としてしばしば挙げられる。しかしながら現在のメンタルヘルス対策としての長時間労働の基準は、企業、産業保健現場での実践性を考慮したものであり、労働時間と精神負担との関連についての科学的な確証は十分に得られていない。職場のメンタルヘルスでもっとも頻度が高い精神疾患はストレス性障害としての抗うつ状態、うつ病であるが、“業務による過労や職場のストレスで精神不調(含自殺)に至った”との労災申請が急増し、さらに過重労働による健康障害(過労死、過労自殺など)の増加などが深刻な社会問題となっている。
そこで本調査では2002年、2004年、2006年と3回の“メンタルヘルスの取り込み”に関するアンケート調査を実施した。今回の調査は“企業のメンタルヘルスの取り組み”に関する取り組みの実態を分析、解明するために全国の上場企業2,150社を対象に実施した。調査結果の概要は以下のとおりであった。
○6割の企業でこの三年間に“心の病”が増加傾向
@年齢別では“心の病”は30代に集中する傾向がより鮮明になった。しかし、心の病は増加傾向であり、40代・50代の“総数”は大きく減ってはいないとみられる。
A“心の病”で“1ヶ月以上休んでいる社員がいる”企業は7割を超えている。
Bメンタルヘルスに関する対策に力を入れる企業が急増(2002年:33.3%→2004年:46.3%→2006年:59.2%)
○心の病の増加の背景に職場の変化
@7割近い企業において個人で仕事をする機会が増えている。
A6割の企業で、職場のコミュニケーションの機会が減り、5割近くの企業で職場の助け合いが少なくなった。
B従業員の責任と裁量のバランスが取れている企業は約6割であり、責任と権限がアンバランスになりがちな現状が示唆された。
○ 心の病の増加に職場環境の違いが反映している
@“職場でのコミュニケーションの機会が減少した企業”のうち、心の病が増加した企業は71.8%、“減少していない企業”との差は25.8%であった。
A“職場での助け合いが減少した企業”のうち、心の病が増加した企業は72.0%、“減少していない企業”との差は20.6%であった。
B“個人で仕事する機会が増えた企業”においては心の病の増加した企業は67.1%、“増加していない企業”との差は17.8%であった。
また労働時間とうつ、抗うつなどの精神的負担との関連を検討した文献の体系的レビューを行い、労働時間と精神的負担の関連についての疫学的エビデンスを整理することを目的とした。
上記調査から“心の病”の増加傾向を迎えるために企業には、@職場における横のつながり(チームワークとコミュニケーション)の回復、A職場責任と裁量のバランスがとれるような業務の仕組みの改革、Bそしてそれらを含めた意味での労働者一人ひとりの働きがいに焦点をあてた“活力ある風土づくり”の必要性が示唆される。
また異なった調査では、労働時間とうつ・抗うつなどの精神的負担との関連を検討した文献の体系的レビューを行い、労働時間と精神的負担の関連についての疫学的エビデンスを整理することを目的とした。
結果は、長時間労働と抗うつ、うつなどの精神的負担との関連を検討した原著論文が17編確認された。そのひとつであるFirth-Cozensは英国の新人医師170名を対象に職業上のストレスと精神的負担との関連を断面研究にて検討した。質問紙により、“overwork”、「週の平均労働時間」などの情報をえた。またGeneral Health Questionnaire(GHQ-30)、およびSymptom Check List Depression Scaleという妥当性が検討された質問票を用いて、対象者の精神的負担度、抗うつ状態などに関する情報をえた。相関分析をおこなった結果、
“overwork”はGHQおよびSymptom Check List Depression Scoreの点数と最も関連が強かった。一方、「週の平均労働時間」はGHQおよびSymptom Check List Depression Scoreのいずれとも関連がなかった。Firth-Cozensは同様に、女性新人医師においても、“overwork”がストレスの最大の原因であったとの結果を報告した。しかしTyssenらは異なる報告をしている。かれらはノルウェーの医学生522人を対象にしたコホート研究を実施し、卒業一年後における研修医の精神的負担を調査した。週の労働時間と自殺思慮との関連を検討した結果、年齢、性、結婚状態、ライフイベント、性格的特徴、職業性ストレス、当直時の睡眠時間を統計的に調整した。週労働時間1時間あたりのオッズ比は0.94(95%CI:0.89-0.99)であった。著者らは「自殺思慮のある人では労働能力がすでに低下している可能性がある」と考察で述べている。また同コホートにおいて、「メンタルヘルスに関する問題を抱えていますか?」という質問に対して、週労働時間との関連は認められなかったと報告した。さらにTyssenのレビューによると、過去に実施された4つの研究において長時間労働による精神的影響は認められなかったと報告している。
今回のレビューの結果、労働時間とうつ・抗うつなどの精神的負担との関連について、一致した結果は認められなかった。17文献のうち、精神的負担の指標と正の関連を報告した文献が7編、負の関連を報告したものが1編、関連を認めなかったものは9編であった。レビューをした論文のうち、労働時間と精神的負担に直接的な関連性を認めなかったと報告した研究のいくつかについて検討を加えた。これらの調査の多くが、労働時間と精神的負担の関連性の検討を直接の目的としたものではない。したがってこれら原著論文本来の調査目的・結果の妥当性を否定するものではない。労働時間と精神的関連性については一致した見解が得られなかったが、一方で多くの研究において、“overwork”「自分の能力的・精神的許容量を超えた業務(時間、ストレス、内容などを含む)」と精神症状との関連は一致して報告されていた。またoverworkに影響をあたえる要因として労働時間が重要であることは先行研究においても明らかである。このことから、労働時間と精神的負担との関連性の検討においては、実際の労働時間と同時に、overworkの評価が重要である。
4.選んだ論文の内容と、ビデオの内容から、自分自身で考えたことを、将来医師になる目で据えた考察
職場の心の病には上記で調べたように、総合失調症、人格障害、薬物依存など様々なものがあるが、そのなかでも労働者のうつ病が大きな問題になっている。うつ病は一般に考えられている以上に深刻な病気である。うつ病は30代に最も多く、症状として、「眠れない」、「意味もなく緊張して落ち着かない」、「ぼんやりしてしまう」などがある。原因は上記には労働時間“overwork”を主に挙げたが、他にも企業の合併などによる職場の環境の変化、昇進したが部下が年上ばかり、リストラによる残った社員への業務の増加などがある。うつ病などの心の病には有効な治療法が確立しており、早期に発見されて早く専門医
と相談し、治療を始めることが重要である。しかし、労働者の多くが自分の状態がうつ病から生じていることを認識できず、適切な治療を受けていない。ごく一部しか医療機関にかからず、そのなかでも精神科医療を受けている人はさらに限られている。心の不調は自覚できないことも多いので、周りの人が専門医へつなぐ役割を果たすことが大切である。さらに、回復後の職場復帰に際しての社内の支援体制も重要である。具体的な内容として、「仕事の量は多くないか」、「なにか不満はないか」という社内でのアンケート調査、会社で話し合う場の提供などがある。これらより、うつ病対策は、予防対策から早期発見、早期治療の社内システムづくり、主治医と産業医との連携、職場復帰支援対策、危機管理対策と多くの内容を含んでいる。また周囲の対応は慎重にしていかなければならない。うつ病疾患者は焦りや不安があるので、励ましたり、叱ったりする事が本人の負担を重くしがちになる。「がんばらなければ」と思っても、それができないことに苦しんでいるのがうつ病であることを理解しなければならない。これだけではなく、自殺の予防が最も重要である。疾患者が「死にたい」などと冗談のように発言したとしても、軽く考えてはいけない。 回復してくると、本人も周囲も安心してほっとしがちだが、油断は禁物である。この時期は早く元に戻ろうと焦ったり、つい無理をしてしまうことが多い。その結果、無理がたたって、症状が悪化したり、自殺を引き起こしたりする。あくまでも、じっくり、ゆっくり療養する事を心がけ、主治医と連絡を取り合って、注意深く見守ることが必要である。これらのことを踏まえた上でうつ病と向き合わなければならない。
5.まとめ
今回の予防と健康の実習によりうつ病を軽視してはいけないということを理解した。精神的な問題だから自分の問題であると思っていたが、原因は環境的なものや社会的なものが多く、だれでもなる可能性があることを知った。うつ病には自信をつけさせるのが最もよく、これから実際に医療の現場で経験するだろうこの疾患には、今回の経験をいかしていきたいと思う。